咳はクリニックを受診する理由の中で多いもののひとつですが、本来は体を守るために備わった、とても優れた防御システムの一部です。ここでは、呼吸器内科・アレルギー専門医の視点から、咳はどのように起こるのか、なぜ起こるのかを解説いたします。
咳の本来の役割
咳は、気道内に貯留した分泌物や異物を外に排除するための重要な生体防御反応です。いわば気道の掃除役であり、普段は意識することなく自動的に行われています。
気道やその周囲にあるセンサー(咳受容体)が痰や異物、炎症などの刺激を感知すると、「迷走神経」を通じて脳に信号が送られます。脳の延髄にある咳中枢がそれを受け取り「咳をしろ」と指令を出し、その信号が横隔膜や肋間筋などの筋肉に伝わります。
その結果、深く息を吸って声帯を閉じ、胸腔内圧を高め、一気に声帯を開放して強い勢いの空気を噴き出す、これが「咳」です。
咳のコントロール
咳は無意識の反射で出るだけでなく、意識的に「出す/こらえる」ことも可能です。例えば咳払いは、自分の意思で引き起こされる咳の一種ですし、人前で咳をこらえることもできます。
これは大脳皮質が咳中枢を直接制御しているためで、末梢の刺激がなくても大脳皮質の指令で咳を起こすことができますし、逆に抑えることも可能です。実際の咳は反射と随意的な調整が複雑に絡み合って制御されています。
病気による咳
咳は本来、防御反応ですが、その仕組みが「誤作動」したり「過剰に」働くことで、不快な症状となります。異物がないのに出てしまう咳や、必要以上に続く咳は、さまざまな病気によって引き起こされます。
- 風邪の咳
ウイルスが気道に炎症を起こし、咳受容体を刺激して咳が出ます。炎症は自然に治まるため、多くは1〜3週間以内に改善します。 - 肺炎の咳
細菌感染による炎症で咳が出たり、痰を外に出そうとする生理的な働きとして咳が生じます。 - 喘息・咳喘息の咳
気道が炎症で敏感になり、アレルゲンや冷気、会話などをきっかけに気道が収縮して咳が誘発されます。痰の刺激でも咳が出ます。 - 鼻副鼻腔炎(後鼻漏)の咳
鼻や副鼻腔で作られた鼻水が喉へ流れ落ち、咳受容体を刺激して咳を引き起こします。
治療をしても良くならない咳
咳は防御反応として必要ですが、病気によっては不快な症状となります。長引く咳の多くは診断と治療で改善しますが、なかには適切な治療を行っても残存する場合があります。
近年、このような咳の原因として 「咳過敏症(cough hypersensitivity syndrome, CHS)」 が注目されています。わずかな刺激(温度変化、会話、笑い、匂いなど)に対しても咳反射が過剰に反応してしまう状態です。原因は明確ではありませんが、咳受容体の過敏化、咳中枢の機能異常、大脳皮質の関与などが考えられています。
現在はこの咳過敏症に対して使用可能な薬も開発されてきています。
まとめ
咳は単なる不快な症状ではなく、体を守る重要な仕組みです。しかし、病気や咳過敏症のような状態では、防御の役割を超えて生活を苦しめることがあります。咳が長引いたり日常生活に支障をきたす場合は、我慢せず専門医に相談してください。適切な診断と最新の治療で改善が期待できます。

