「やめたいのに、やめられない」「意志が弱いと言われ続けてきた」──喫煙を続けてきた方の多くが、こんな自己嫌悪を抱えていらっしゃいます。でも実は、ニコチン依存症は意志の強い弱いで片づけられるものではありません。脳の神経回路そのものに変化が起こる慢性再発性疾患という、れっきとした病気なんです。
このページでは、なみきばしクリニックの院長が、ニコチン依存症という病気そのものについて、診断・脳のしくみ・離脱症状の経過・セルフチェックを中心にお話しします。喫煙が体にどう影響するかはタバコによる健康被害、保険適用の禁煙治療の流れや治療薬の詳しい内容は禁煙外来のページで別にご案内しています。受診をご希望の方はWeb予約からどうぞ。
ニコチン依存症とはどんな病気ですか?
ニコチン依存症は、医学的にもはっきりした「病気」として位置づけられています。脳に作用してやめにくくさせる仕組みがきちんと解明されていて、治療の対象になるという考え方は世界共通です。
この病気のポイントは、体に染み込んだニコチンへの依存と、長年の喫煙で身についた「吸う習慣」が組み合わさっているところにあります。ニコチンが切れたときの不快感だけでなく、食後・コーヒー・お酒・仕事の合間といった特定の場面でも、強い渇望(かつぼう:強く吸いたくなる感覚)が起こるのです。しかも糖尿病や高血圧と同じように慢性で再発しやすい病気なので、一度の治療で終わりというより、長くつき合いながらコントロールしていくものと考えられています。肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心筋梗塞・脳卒中などのリスクが高まることも分かっています。健康への影響についてはタバコによる健康被害のページをご覧ください。
なぜニコチン依存になるのですか?
ニコチンは、肺から吸収されるとわずか7〜10秒で脳に届きます。そして神経細胞の表面にある受容体(じゅようたい:神経細胞がニコチンを受け取る鍵穴のような構造)に結合します。すると脳の報酬系で ドパミン(快感や満足感に関わる神経伝達物質)が出て、強い快感と「もう一度吸いたい」という気持ちが生まれます。
これを繰り返すうちに、脳のほうでは受容体の数が増えていき、同じ満足感を得るためにより多くのニコチンが必要になります(耐性)。やがて、ニコチンが切れた状態を「異常」と感じる体の依存ができあがっていきます。この変化は意外なほど早く、思春期にほんの数本吸っただけでも依存の症状が出始めることが分かっています。「毎日吸っていないから依存じゃない」という自己判断が当てにならないのは、こういう理由なのです。
禁煙を試みると離脱症状(りだつしょうじょう:薬物が抜けるときに現れる不調)が出てきます。代表的なものは、強い渇望、いらいら、不安、気分の落ち込み、集中力の低下、空腹感、不眠などです。経過には個人差がありますが、多くの方は禁煙を始めてから2週間以内に体の症状のピークを越え、そのあと少しずつ楽になっていきます。一方で、渇望そのものは6か月以上続く方もいらっしゃいます。「最初の2週間を越えれば楽になりやすい」という見通しを最初に知っておくと、禁煙を続ける支えになります。
自分は依存症なのか確かめる方法はありますか?
日本で広く使われているチェック方法に、TDS(タバコ依存症スクリーナー)という10項目の質問票があります。依存症の診断基準をもとに作られていて、信頼できる評価ツールとして定着しているものです。
質問は「自分の意思に反して吸ってしまう」「吸う本数を減らそうとしてうまくいかなかった」「やめたときに離脱症状を経験した」「離脱症状を避けるために吸ったことがある」など、依存症の核になる体験を10個の角度からたずねる作りになっています。「はい/いいえ」で答えて、5点以上でニコチン依存症と診断されます。
TDS はただの自己診断ではなく、日本の保険診療で禁煙治療の対象になるかどうかを判定する公的な基準でもあります。具体的には、(1) すぐに禁煙したいと思っている、(2) ブリンクマン指数(1日の喫煙本数 × 喫煙年数)が 200 以上、(3) TDS が 5 点以上、この3つを満たす方が保険診療の対象です。結果がボーダーラインだったり、方針を一緒に考えたかったりする場合も、外来で採点と対象判定までできますのでご相談ください。
当院の診療方針
当院では、ニコチン依存症を「意志の問題」ではなく慢性疾患として扱います。TDS による評価と喫煙歴のお話を聞くところから始めて、これまでの禁煙チャレンジの経過・離脱症状の出方・ほかの病気の有無を整理したうえで、無理のない治療計画をご提案します。バレニクリン(チャンピックス)とニコチンパッチのどちらも、保険診療として続けて対応できます。治療スケジュール・費用・副作用などの詳しい内容は禁煙外来のページにまとめていますので、治療そのものをお考えの方はあわせてご覧ください。
よくあるご質問
Q1. ニコチン依存症は、結局のところ「意志が弱いだけ」ではないのですか?
いいえ。正式な病気として分類されていて、脳のニコチン受容体や報酬系の変化が背景にあることが医学的に分かっています。意志の強さだけで解決できるものではなく、お薬による治療と行動面のサポートを組み合わせると、成功率が大きく上がることも分かっています。「自分の意志ではどうにもならなかった」というご経験こそ、依存症としての評価と治療の対象なんです。
Q2. 吸わない日もあるのですが、それでも依存症なのでしょうか?
毎日吸っていなくても、依存症と診断されるケースは少なくありません。TDS が見ているのは「本数」ではなく、「意思に反して吸ってしまう」「やめようとしてうまくいかない」「離脱症状を経験する」といったコントロールが効かなくなっている状態です。週末だけ吸う方やストレスのときだけ吸う方でも、依存症にあてはまる可能性があります。
Q3. 離脱症状はいつまで続きますか?
多くの方では、禁煙のあと2週間以内に体の離脱症状(いらいら、不眠、集中しにくいなど)がピークを越え、そのあと少しずつ軽くなっていく経過をたどります。一方で、強い渇望や気分の落ち込みが数か月続く方もいらっしゃいます。お薬で大きく和らげられることが多いので、詳しい治療内容は禁煙外来のページをご覧ください。
Q4. 加熱式タバコなら依存症にならないのではないですか?
加熱式タバコにもニコチンが含まれていて、脳の受容体に作用するしくみは紙巻きタバコと同じです。そのため、依存症の評価の対象になります。健康への影響や紙巻きタバコとの違いについては、加熱式タバコのページで詳しくご案内しています。
禁煙を考えている方はお気軽にご相談ください
これまで何度か禁煙を試みて続かなかった方、朝起きてすぐ吸いたくなる方、健診で呼吸機能や血圧・脂質を指摘されて禁煙を考え始めた方、ご家族から勧められているけれど踏み切れない方、まずは自分が本当に依存症なのか確かめたい方──どの段階でもご相談いただけます。
ニコチン依存症は、医学的に評価して、計画的に治療していく価値のある病気です。具体的な治療内容・スケジュール・費用については禁煙外来のページでご案内しています。ご予約はWeb予約から24時間受け付けています。
参考文献
- World Health Organization. ICD-10: International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th Revision. F17 Mental and behavioural disorders due to use of tobacco.
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5). Tobacco Use Disorder.
- Kawakami N, et al. Development of a screening questionnaire for tobacco/nicotine dependence according to ICD-10, DSM-III-R, and DSM-IV. Addictive Behaviors. 1999;24(2):155-166.
- Rigotti NA, et al. Treatment of Tobacco Smoking: A Review. JAMA. 2022;327(6):566-577.
- Benowitz NL. Nicotine Addiction. New England Journal of Medicine. 2010;362(24):2295-2303.
- 日本循環器学会ほか『禁煙治療のための標準手順書』
